天気予報では雨が落ちてきても不思議ではないそうで、確かに空は一面の雲。昼頃まで持ってくれたらあり難い。こんな時でもなかったら恐らく訪ねることも無いだろう御岳のクリンソウを訪ねてみよう。いつもの様に火打岩集落手前の橋の隅に車を止めた。少し前にはイカリソウの群落であった山の斜面はシャガやウマノアシガタに代り、道脇の清掃作業であるらしいおじいさんが、その草花を薙ぎ払っている。
登山口に入ったところで登山者には見えない小奇麗なみなりのご婦人が下山してきた。挨拶もどこか奥ゆかしく、お花見に来られた人はやはりお洒落。小汚い我々とはどこか違う。前宣伝の効果も十二分にあったようで、登山道の踏み跡は尋常ではない。整備に尽力された皆さんもさぞご満足であろう。とわいえ、尾根までは結構なアルバイトであるにも関わらず、朝早くから見学に訪れる人の気丈な事。
息もきれぎれで尾根に到着。ここからは殆ど水平道が自生地傍まで続いている。ところどころ道の下にある洞には、誰が作ったかもわからない、いつの時代のものであるかもわからない石仏が安置されている。ちょっと余裕があれば道を2〜3m降りれば誰でも見る事ができたのだが、近頃はヤブが逼りいよいよ見辛くなった。
前方から下ってくるカップルがあり、後方からも声が近づいている。100年前の街道筋はかくあったであろう。一度は降りてみたいと思っていた御岳の南尾根直下に広がる広葉樹の森。そこがクリンソウの自生地で、偶然発見されたそうだ。もし、自分が発見していたら、ちょっと位は名を残せたかもしれん。あ〜残念無念。
左下に続く廃道は綺麗に整備され、クリンソウの自生地辺りはトラロープで境界が作られている。花は今が盛りで、光の少ない中でも色鮮やかな虹彩を放っていた。サクラソウ独特のなんとも賑やかな花ぶり。先にも後にも見学者があるなか、乱獲による絶滅を心配せざるを得ない。ひっそり生息していたものを、こんな形で喧伝していいものだろうか。花さえなければ只の菜っ葉にしか見えないところがこの植物の空蝉の術である。この時期だけはしかし止むに止まれぬ思いがあるのだ。
17万もの花を見たかどうか、兎に角コースを一周して御岳道に戻った。同じように御岳を目指す人達が前後にある。急な登攀の途中、岩のテラスから見た自生地は、例年と変わらず森の中に見えない。汗が乾くと少し寒い。カウベルが響き、オオタワからの登山者が付いた様だ。テラスを離れ、ピークを踏んでここでおやつ。隣ではカッパを着込んでおにぎりである。ちょっと羨ましい・・。
殆ど一直線に下降するオオタワまでの道程では、誰とも会わない。人の気配が消えてしまった。オオタワには二台の車が有るだけで、こんなにひっそりしたオオタワを見たのは始めてである。賑やかさは全てクリンソウ辺りの上空に集まったらしい。車道にも関わらず車が通らない。これもまた初めて。午後から雨の予報が出ている所為もあるだろうが、食材探しには打って付け、怪しまれる恐れも無く、道横のタラの新芽を収穫できる。
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