こんなにあっちこっちで荒れた天気では、ノーマルタイヤとチェーンだけで、しかもできればチェーンは使いたくないといった怠け者では行くところは他に無い。やはり半国山。半国山でさえ、堀越峠の積雪・氷結如何では、とても突破できない難ルートになることもめずらしく無い。今日の気温は先ほどから0度、陽差しがあるところだけは氷も融けて濡れている。
丁度山の影にあたる旧道には、うっすらと雪が積もり、その下には氷が張って、登山靴でもまるで歯が立たない。恐る恐る歩くのがやっとの道を、我が愛車は兎に角も思ったように進んでくれる。金輪寺参道と旧道出会いに車をとめ、歩き始めたころには、見上げた空の大部分に青空が広がり、気温は0度でも風も無く温かい。
谷川に沿った道を歩き始め、由緒のあるらしい墓列の前でおじいさんが立ち止まっている。山に行くかと聞かれ、ここからが長い。金輪寺の由緒や、現在の住職の話が続き、住職は大峰奥がけでは相当偉い山伏であり、年に3回ほどは出掛ける。昔は山にも大分良く登ったなどと、此方で腰を折らねば何時終わるとも知れず、「行ってきます」と突き放した時の顔には 、戸惑と悲しみの色があったように思う。
参詣道の両側の松の梢から、温まった拍子に大きな雪の塊が落ちる。ぽっかり口の空いた松山から南西に伸びる尾根に乗った。足跡が一つだけあり、大股の男性らしい。北側に山腹を横切るあたりからは、黒雲の下に白く輝く若狭・丹後国境尾根が望まれた。主尾根に乗る辺りはさらさらに乾いた雪で、歩くたびに軸足が滑る。
雪の重みで垂れ下がった常緑樹の傍は腰を降ろして進まないと雪まみれになる。身体が硬いのでこれがかなり苦痛でもある。ピーク下の潅木の林では、手で触れただけで大量の雪が頭に落ちる。先行者の足跡は、山頂で僅かに歩みを止め、その後直ちに赤熊方面に下っている。
東の空には愛宕山・地蔵山の尾根の背後に、一際高い比良山系の真っ白な姿があり、さらにその背後、遠くの空に見える山並みは白山山系だと思われた。空気が非常に冷たく澄明で、遠望に揺らぎがない。山頂は風が強く、長居は無用の我慢である。山頂で食べるはずのラーメンはお預け、空腹のまま、自分で付けた足跡を辿った。
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