皆さんはツチグリというのをご存知でしょうか?。里山あたりの切り通しや普通の林床で、色の悪い、食べられそうにも見えない小さな柿の実が転がっていたとしたら、それがツチグリです。
秋本番ともなると柿とも見え、花のようにも見えるのですが、実はキノコの仲間で、小さい時はまん丸で、時には人に食べられたりもするのです。ここは若狭にほど近い里山の尾根に通じる道端の赤土の上です。
やや傾斜のある土の上にはツチグリの8人兄弟が、折からの冷たい風に吹かれてフラフラ揺られておりました。土グリのお尻には、他のキノコのように根っこというものがありません。
根っこがないということは、家がないのと同じことで、兄弟は皆、少なからず心細い思いを隠しておりました。形からも分かるように、そんな弱気を見せるツチグリではありません。
むしろ強い風に吹かれた折にはコロコロコロコロ転がって、時には10mも離れた場所に移動することもあり、そんなときには、僕はもう少しで星になる、と大きな声で兄弟に告げるのでした。
他の兄弟もまた口々に歓声をあげ、離れて行く兄弟を励ましました。実際、柿の実だの花などと云われもしますが、空中に浮いたところを想像してみると、空飛ぶ謎の円盤ようでもあったのです。
今日は北風の強い日で、青空も少ししか覗きません。北の空から新しい雲のかたまりが次々と流れて来ては去って行きます。兄弟の身体はグラグラ揺れて、今にも転がり出しそうな気配です。
一番年長のツチグリが云いました。みんな、僕らは風になろう。お星様になるのは難しい、誰かがなってくれたら其れでもいいけど、風にならなれそうだよ。今にも風と一緒になって、高い高い空へも、遠い遠いお山へもいけそうだよ。
兄弟は声を揃えて云いました。そうだ、風になろう。あの霞の先にある山にも、あそこの青い屋根のお家にも、どこにでも飛んで行けそうだよ。誰かが行き着いたら、大きな声で知らせてあげるよ。そこは僕らの家になる。
大きな風が起こりました。ツチグリの一人が、コロコロコロコロ転がって、とうとう高い高い崖の外に転がりました。おりから吹き上げる風が、高く高く、遠く遠く、ツチグリを連れ去りました。その時です、ツチグリの頭から白い白い粉が吹き出しました。
ツチグリの子孫たちです。ツチグリが地を離れる時、兄弟に残した言葉は不明です。兄弟はしかし、すっかり安心しきった、どこか、多少強張ったところも、風になった兄弟の顔の上に見ることが出来ました。
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