夏山登山道に続く人の波は絶え間なく、老いも若きも男も女も、笑みを浮かべた顔は皆同じである。
そこへいくと大山寺に続く道は閑散として色が無い。御参りの方々が神妙なお顔で神仏に対するのは仕方がないとしても、今から山を登ろうというのだから、登るまえから亡者では詰まらない。
花の無くなる季節とはいえ山ガールの一人も無いとは寂しい限り。背後に3人のお兄ちゃんを従え、下宝珠超えに取り付いて十数分、舗装道路に辿り着いた。
ここでソロの男性とお祖父ちゃん二人組を加え、色の乏しいキャラバンを形成。ソロの男性を先頭に尾根に向かった。
自信有りげなソロに引けを取るわけにはいかず、心臓の持つ限りはと後を追う。後続はどんどん離れ、束の間のキャラバンは忽ち解散。
尾根が近づく頃には開き始めた先頭との距離が縮みはじめ、相当息が上がっているのが伝わってくる。最後の厳しい斜面をやっと登りきり、へろへろになって椅子の代わりの倒木に倒れ込んだ。
と、数メートル離れた林床に、同じように倒れ込んだソロがいる。ふん!と気合一発、ここで違いを見せておこう。彼の目の前を、悠々と歩く様に見えたかどうかは怪しいのであるが、兎に角、中宝珠への尾根へは先行したのだ。
中宝珠ピーク辺りで一息ついているところを、件のソロが抜いていく。まあ良かろう、大山北壁にはガスが掛かり展望は全くないし、悔しくもない。
細尾根を一旦下り、登り返して上宝珠の尾根。陽射しがあってむちゃ暑い。途中で数人追い越して、上宝珠で件のソロを再び追い越した。
ユートピアへの巻道に入ると、色付いた山葡萄の葉が目に付く。実でもあれば食べてやろうと、かなり真剣に見たつもりだが実はない。試験管の洗浄に適した形のサラシナショウマの白い花。
ユートピア周辺には、僅かに、ピンク色のイヨフウロと白いヤマハハコ程度が残っていて、アキノキリンソウなど秋の花はあっても、夏の花の季節は終わっていた。象の鼻も無人。
窓から顔を出している人を含め、後から到着する人も誰もここから上に行こうとしない。どうも初めての方々が多そうである。お先に象の鼻の岩場に移動、果たして後続も、これに合わせてぞろぞろやって来る。
忽ち狭い岩場は一杯に、ならば更に登って、ガレて見えるその上まで行ってやろう。背後で驚嘆の声も聴こえてくる。南の風が強いので、北側に小広い辺りが望ましい。やってきたのは、登攀限界の1630の少ピークの下。ピークは既に占拠され、双眼鏡で下の様子を伺っているのだ。
ガスが早足で行ったり来たりする中、多少寒さを覚えつつ弁当を食べる。後で聞いたことだが、山にいる間中聞えていた轟音は、海に近い地域の雷雨であったそうだ。
下りのピストンは覚悟していたのだが、上宝珠出会いのお兄さん情報に誘惑されて砂滑りを下降。昨年は通行止めで有ったルートだが下ってみて驚いた。
まず設置ロープを使う以外に下降出来ない程抉れた深い谷底。砂どころか、赤黒い火山性の地質を剥き出しにした小さな崖が続く急峻な深く切れ落ちた谷。降りはじめに襲った落石。
避けられる程度の広さがある場所で助かったが、一度に緊張した下降になった。後続と適当な距離を保たないと、落石を免れない。ところが持つ岩は脆く、易々とは行かない。
ここは通行止めにしないと、必ず事故が起こる場所だ。振り向いて見た谷の遥か上で、後続が難儀していた。途中に、露出した大きな雪渓が2つあったのを確認出来たのは、不幸中の幸いであった。
皆さん、砂滑りコースは危険です。
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