福居の集落は涼しい。高い山の端から、ようやく日が昇ろうとしている路肩の草には朝露が光る。時刻は既に9時を回ったころである。
一番奥の、田圃の奥にあるべき草拭の家が綺麗さっぱり跡形も無い。畦道や家の周囲は何時でも掃除の行き届いた家であった。家を取り壊すなど尋常では無い。
近くなると敷地の様子が良く判り、どうも基礎工事が進んでいるらしい。新居が建つとしたらめでたい事だし、賑やかになるのかも知れない。他人事ながらそうあって欲しいものだ。
沢道との分かれのそばに車が一台。もみじマークを付けた四駆だ。橋を渡って尾根コースを取る。川辺を離れると流石に熱い。沢山いた山椒魚の幼生は何処にもいない。
林道を離れて急斜面の登山道を登って行く。関電の巡視路出会いで踏み跡は別れる。雪が無ければ巡視路道を行っても良い。帰りに歩く積りで谷道を進む。
谷の水も少なくなり、僅かな流れと別れて尾根へのジグザグ道を歩く。辺りの林床をイワカガミが覆い、ブナなどの落葉樹が作る木陰で何とも涼やかである。
尾根に乗ると陽射しの厳しいところもあり、古い山道に堆積した木の葉がパリパリ音を立てて砕ける。大阪辺りの夕立は、この辺りには無縁だろうか。中央分水嶺出会いのお地蔵様、横尾峠のお地蔵様は、ハイカーのお陰でお洒落になられた。
西に折れて頭巾山を目指す。綺麗な緩やかな尾根が続くのだが、これが結構応えてくる。登山道入り口には3km程度とあったが、これは恐らく沢コースのことだと思われ、尾根上の巡視路出会いでは、ここから3kmだそうである。
尾根のアップダウンが続き、時おり日本海への展望が拓ける。ハナヒリノキは思い切り勢力範囲を拡げ、笹は殆ど枯れてしまった。ダブルストックの単独ハイカーが帰って来られた。ご苦労様です。
一旦大きく下ってから登り返して頭巾山である。心臓は高鳴り、改めておお汗をかかせて貰った。山頂に人影は無い。日本海は見えても、空と海との境界が不分明である。小さな祠の周りをチョウが跳び回る。
暫く眺望と涼風を楽しんで、さて時間もやや遅くなった。谷コースで下れば一時間は早かろう。難所は二箇所、滝とゴルジュの高巻だけ。ところがこれが暑かった。
谷底には風も吹かず、日差しは思った以上に届くのである。杉の倒木、間伐材が谷を塞いで行く手を遮る。出発点の橋の上に帰った時には、別な山歩きを終えた後のようであった。靴を脱いで足を冷やすそばを、アキアカネが跳び回る。そういえば、尾根のトンボはもう少なくなっていた。
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