この頃、朝となく夕となく、気まぐれのようにおきる嵐のあと、今日の越畑を抜ける風には秋めいたものが感じられる。
畑に林立するヒマワリに花びらはなく、黒ずんだ成熟した種だけが余熱を運んでくる。余熱といえども相当なものだ。額からは大粒の汗、路面の輻射熱で身体はあせまみれである。
芦見峠は日射が強すぎ、イノシシの土木工事とあって休息の場も無い。地蔵山へ向かうには気力が不足している。
清らかな水の流れる芦見川を涼しい風が渡る。狭い空には薄雲が掛かり、雷雲が気にかかる。大雨の跡としては静かな流れだ。
昨日の嵐の故では無いにしても、随分渓相が変わった。慣れ親しんだ踏み跡は流され、川の中洲を歩くような場所もある。こうなると寧ろ古い石積などが目について、今日に至ってもなお有難いユリ道である。
竜ヶ岳出合でも暫し黙考、ハエアブと流れる汗にまみれての労苦は今日の気分に似つかわしくない。細くなった芦見川に沿って源頭まで歩く事に決定。
流れは細くなっても、平坦な岩の川床を滑る水の冷たさ。杉の林を透かして差し込む光に浮き上がった登山道に、今日の先行者はたったの一人。唯一の高巻きでは少なからぬアルバイト、その後、最後の源頭部まで緩やかな流れに沿って歩くのみ。
最後は流石に高度を稼ぎ、熱した身体に湧き水はご馳走である。そばで咲くヤマジノホトトギスも露に濡れて瑞々しい。
一息ついて愛宕道出合、小学生位の男の子が愛宕山三角点を登っていく。先に行くのはお父さんか。些かの抵抗の色もあった様である。
旧スキー場を前にして流れる風の気持ちの良い事。気温は24度くらいでひんやりしていて爽やかである。芦見川の水を詰込んだ腹で暫しまどろみの中。
ふと見ると、そばのガマズミの実はすでに赤い。確かに、小さな秋の色はかしこにあった。これより地蔵山への道中は、ハエアブと目に飛び込んでくる羽虫との道行であった。
無人の地蔵山には西向き地蔵さんがお一人、相変わらずにこやかなお顔で立ち尽くしておられる。登山道に沿って新たに設けられた鹿除けネットには索然とした思いがする。反射板跡から見た南西の空に、真っ黒な雲がかかる領域があった。
年を経るごとに次第に鬱蒼とした森に変わっていく北側斜面を黙々と下り、芦見峠で残りの麦茶を飲んだ。午後の、眠りを誘うような温気に包まれた静かな越畑は、お盆休みの最中にあった。
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