梅雨前線が東に移動し今日一日は雨のようだ。宮前から見上げた山腹から上はガスがかかって見えない。まだ雨粒が来ないのはなによりも有り難い。いきなりでは出足が鈍る。
宮川の流れもやや多め、瀬を鳴らす水音も常に増して谷に響く。流石に今日は人の姿は無い。草アジサイの花は既に無く、ネズミモチは未だ蕾である。林道から、暗い登山道に入ると汗が噴出す。
上半身だけはカッパを着たから熱がこもる。風が吹くと落ちてくる雫で雨と同じ。やっと尾根に出て風を入れているところへパラパラ来た。酷く荒れたように見える登山道に、はっきりと残るバイクの轍。
イノシシの土木工事もかなり酷いが、バイクのそれはもっと細くて深いのである。深い溝に雨水が流れる。東側の尾根に乗る辺りから強風と同時に強烈な雨粒。明るい筈の尾根はガスに覆われて暗い。
帽子も何も直ぐにずぶ濡れで、無防備のズボンに入れた車のキーが気になる。大峰と比べれば大した降りでもないのだが、再び水の中に浸してしまうと、二度と機能しない恐れもある。
降りしきる雨の中、黙々と歩く目の前に見慣れた葉が揺れる。どうもブナの葉に似ている。ブナより側脈が多く、樹皮にざらざらした小さなイボが多い。間違いなくイヌブナである。
イヌなどと形容すると余程ダメな木のように思われるかもしれないが、葉は涼しげで形が良い。シデの類の多い半国山で、イヌブナを発見したのは初めてだ。雨のお陰としておこう。
頂上下の開けた広場で終わりにした。雨が酷くて眺望も無く、ピークハントが目的ではないのでこれで十分である。引き返す登山道の上に、伸びたヒキガエルがいた。良く調べてみるとどうも死んでいる。
踏みつけてしまったか、昨日のバイクの犠牲者か、どっちにしても悪いことをした。冥福を祈ろう。
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