河内の集落を流れる川の水は青い。青いながらも多少白っぽく濁っているのは、権現谷の荒れようを物語っている。仔細は帰りには分かるだろう。
赤茶けて心細い橋を渡り家の庭をぬけて古い山道を上ると、集落を見下ろす細い岩尾根に出る。最近は使われた痕跡も無い、神社裏からの道と出会う。黄色い小さな花を一面に付けているのはシロモジである。混じってアブラチャン(?)の花も咲いている。
岩尾根から見下ろした集落の細い道を、ひっきりなしに車が通る。中には3台ものタクシーを連ね、観光バスに分譲した、霊仙参りのハイカーの群れである。
両側に切り立った岩尾根の所々に咲く小さな白い花はミスミソウ。昨年に比べ、個体数が少ないように思うのは、寒さの所為だろうか。今日も、現在は未だ気温が低い。
尾根を登りきったところにある大きな杉の木、樹齢にして100年以上の巨木2本の間に、消え入るように置かれたお地蔵様。顔は風雨に曝されて識別も難しい。
杉の林が切れるとかなり厳しい斜面が続く。加えて真っ黒な表土は湿り気もたっぷりで良く滑る。振り向いた肩越しに、形の良い笹峠から近江展望台が鮮やかに見えだした。恐らくあちらも同様な光景が続いているだろう。
斜面を抜けた緩やかな広場、陽射しも溢れ多少熱くなった。目指す鍋尻山ピークはすぐ目の前にある。大きな霊仙を単眼鏡で覗いてみた。いるはいるは、急斜面にへばりつく団体さん、尾根道を最高峰に向かう長蛇の列。
此方は鳥の声のみが響き渡る静かな峠だ。苔むしたカレンフェルトの山腹を歩くこと約30分、どうやらピークは目の前だ。ピークを後にしてフクジュソウの斜面に向かった。既に盛りを過ぎた花の頭は、俗世を離れた坊主であった。
それでも下方からよじ登ってくる賑やかな声。フクジュソウの咲く僅かなエリアで小休止。保月に下るイワヒメワラビの枯れ草の上で食事。座った直後に目に入った特異な虫の姿。尺取虫・・・、ヤマビルである。シートの上にも這い上がり、長閑な休息は忽ちの内にパニックである。
なんぼなんでも早すぎる攻撃だ。このあと保月までの林ではお目にかからなかったのが幸い。昨年と同じく、今日は集落の祭りである。ヒル騒ぎを他所に、森と静まり返った神社の中は厳かであった。
集落のフクジュソウは今がピーク、花を見るならここが良い。長い道を歩いて権現谷を下った。過ぎし日の猛低気圧による被害だと思うのだが、林道はこれまでに無く荒れていた。荒れた林道を自転車に跨ったご老人パーティーが通り抜ける。
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