越畑は、NHK製作「日本里山100選」に選出されたらしい。地蔵山登山口脇の掲示板は、これを誇らしげに伝えている。段々畑では、そろそろ農作業の準備が進められているようだ。
ところが、農業を支える芦見疏水にまだ水は流れない。休日の疏水トンネル出口の工事現場に人影はなく、今にも落ちてきそうな空模様の中、木の色も鮮やかな神棚が出口の上に鎮座している。
そろそろ4月になろうかというのに、芦見峠に新雪があり、厳しい風は1度もない。春先の雪は辺りを真っ白に綺麗に染め、季節がら、これが桜に見えて仕方が無い。
芦見林道では、葉を出したキケマンに未だ花はない。気温の低い渓流に釣り師の影もない。流れをよぎる、素早い影は幾つかあったようだが、何であったか確認出来ない。
昨日の雨か雪解け水か、これを集めた芦見川の水は多い。徒渉する度の踏み石の選定が中々に難しく、ユリ道を離れて渡る事も屡々。竜ガ岳登山口を右に見て、真っ白な谷を川に沿い古道に沿って詰め上る。
何度か小さな谷と別れ、最後は水の湧く自然林の境で水辺を離れてザレの道を登ると、雪混じりの風が吹き荒れる愛宕道に出た。何時の間にか気温は氷点下。
薄雪の愛宕道には数人分の足跡が残り、うち二つは尾根伝いに地蔵山方面に続いている。ほとんど馬酔木に埋め尽くされた尾根を、先行者の足跡を頼りに反射板前、ソロの男性が一人降りてくる。
女性のような小さな足跡は、男性の履くスパイク付きの長靴のもの。これは騙されても仕方が無い。地蔵山ピークを越え馴染みの年下のお地蔵様、体の割りに大き過ぎる露出したおみ足。
神仏に寒い事も無さそうなものだが、見えてしまった以上、今日の様な天気では些か気の毒だ。お地蔵さんのよく為せる技ではあるまいが、これよりの道程は風は強まる雪は強まる。
降りしきる雪に霞む越畑集落、石垣の上の畦道にはフキノトウがあった。
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