■ 鈴鹿・御池岳 ノタノ坂〜御池・夢幻
・・・・2012年03月18日
2012.3.18

御池川の岸に立つ、フサザクラの枝々には、今にも咲きそうな大きく膨らんだ花芽がある。今日の天気ではその想いは適いそうにも思われない。小又谷の林道に入るとまだまだ十分な雪があり、昨今の慌しい様子を雪の上に残していた。

小又谷を越え、所々崩壊の進む山道を詰めるとノタノ坂である。何度も登っているはずであるのに、今更ながら急坂に萎えつつ汗を拭く。する間に雨が降ふりだした。濃い霧が辺りを覆い、鈴鹿主稜線はおろか、目の前の樹林の様子さえ分からない。

尾根に沿い、北に進んで茶屋川源流域への下降尾根出会い。最近のものらしい雪の上の足跡。土倉谷の雪は深く、尾根には雪庇があって、ぬかるむ尾根道よりも歩きやすい。

平坦な土倉岳から先は冬景色であった。気温は4度、流れる霧を集めた枝先の、氷の代わりの水玉は、春の訪れを如実に示している。見上げた斜面の上にあるべき巨大な御池の舷側は霧の中にあって、辺りに木魂するのは雪解け水を集めた谷のせせらぎだけであった。

やっと上り詰めた御池・奥の平、雪原は霧の彼方に消え入り、形あるものはただ雪の上に顔を出したカレンフェルトと傍の潅木だけ。幽かに樹林の枝先が見えたようであったが、夢か幻か定かならず。

茫漠として取り留めのない白い世界を離れ、風を避けてドリーネの底で昼食。北側には数メートルの雪の壁。ドリーネを出たとたん、形の無い世界に包まれる。際限の無い白の世界を西に移動、T字尾根への下降地点に向かう。

更に濃くなった霧で、概ね視界は20m程。狭いT字尾根取り付きへは、一抹の不安が無い訳ではなかった。何回か通過した経験もあり、視界が無くとも、と思ったのは失敗の始まり。結局、右にも左にも振れなくなり、引き返すハメになってしまった。

戻り始めた丁度そのとき、森閑とした雪の斜面に突如として起こった強大な岩石の崩れ落ちる爆音。辺りの岩や草木をなぎ倒す破壊音がこれに続き、谷の底に消えるまで、呆然と立ちすくむのみ。それでも辺りは霧の中。

登り返して再び夢幻の世界。登りに残した踏み跡を辿りながら、土倉岳に続く斜面を下る時には、自然と足取りも軽くなるのが分かるのである。中部電力の鉄塔付近で沸き起こる喧しい鳥の声。冬枯れの、枝先に鈴なりになったウソの群れであった。



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