空は快晴、風薫る季節の到来と言いたいのだが、どうも朝から暑過ぎて4月半ばが嘘みたい。須後の駐車場の半分は埋まり、用水を利用した小屋が出来ていて、裏手に回ると黄色いトラロープで囲まれた中、水路の破れ目から溢れる清冽な水の中にワサビが涼しそうに泳いでいる。こんなところを長々とうろつくと何を思われるか判ったものではない。品行方正は難しい。
身支度の間にも、ご夫婦らしいお二人が長靴姿で旅立ちである。だれが流行らせたか、長靴はいまや芦生のトップモードである。 これを知らない我々は時代錯誤のこんこんちき野郎と責められる恐れがある。櫃倉谷に入ると直ぐに5〜6人のハイカーに出会った。葉を開くばかりの栃の新芽を指差して、なにやら小難しい講義の最中。いずれも風雪の記憶も多かろう、妙齢の郊外学習型ツアーである。足元はほぼ長靴が主流で、時代感覚にも優れた人たちであった。
長〜い林道を約一時間、川を跨いで横山峠の取り付きに掛かると急斜面下あたりに残雪がある。イワウチワの淡いピンクの花びらが風に翻り、木陰では随分涼しい。まだ葉は出ないので、谷底と云えども陽の当たる辺りは乾燥し、累積した昨年の落葉がカサカサ音を立てる。振り返ると物音に驚いたカナヘビが避難するところであった。
ニリンソウやカタバミが群落を作って咲いている。滝を大きく巻く辺りから人の気配がない。山肌まですっかり見えてしまうので奥深さも感じられない。どうにか体裁を繕うのが大きなミズナラの倒木である。小さくなった流れを残して左手の急斜面に取り付く。他に楽なルートもあるだろうに、一体誰がこんなルートを作ったものか。直登をこなすと林道に出る。左に少し歩くと杉尾坂峠。
今日は左手の尾根沿いに歩いてみよう。林道も整備されているし人の足跡も殆ど無さそうだし。林道には残雪が彼方此方にあり、今日の暑さが嘘のよう。静まり返った山腹の中、冬眠から覚めたクマが出そうな雰囲気に、当方少しびびりぎみである。歌でも歌って歩くとしよう。それでも現れたらカメハメハでもお見舞いしようか。僅かに芽生えたばかりの森は浅黄色。
林道終点は長い滑滝が、一際高い尾根の頂き近くからほぼ垂直に落ちている。尾根まで登る気力もなし、気温も高くて水の傍が恋しい。谷まで降り、頭から水を浴びるとこれが気持ちいい。これを降りたら何処へ出るやろ。どうせ櫃倉に行くには違いないけど、恐ろしい処であったらなんとしよ。ま〜ええか、なんとかなるやろ。1〜2mの滝の続く気持ちの良い小谷である。
最後はちょっと落差のある滝であったが如何にかこなして櫃倉谷へ。滝の高巻きを降りたところで学習ツアーにまたあった。花の名前位は判るので、ツアーの講義は必要なし。横山峠を下り林道に乗ると、捕虫網をもったおっちゃんと会った。更に下ると捕虫網を持ったおばちゃんと会った。橋の下では子供が小岩を転がしておる。野次喜多道中に似た二人組み、あっちへウロウロこっちへウロウロ、何時になったら帰りつくことか。大きなお世話に違いない
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