寒気に沈む能勢の郷、僅かに雪化粧した登山道の無数の足跡から、登山者の熱気が伝わってくる。老いてなお充実したおっちゃん・おばちゃんの気力は敬服に値する。
岩に刻んだ観音様の坐像、直後の岩の上に残る足跡は、寒さに震える能勢の町を見下ろしながら、どのような思いを致したことであろう。輸入超過で貿易立国に火の付いた祖国を憂える眼差しもあったであろうか。
行者山までくると、風の中に白いものが舞う。三々五々下りてくる皆さんの明るいこと、気持ちは既にお湯の中かもしれん。立ち枯れた松でもないと寒い、風の抜け方がいやにキツイ。どうやらここは、風の峠、というらしい。洒落ている。
東北斜面にはいると雪が多くなる。多くなっても数センチではあるが、木の枝に残る風の花は美しい。年の頃は恐らく70越え、にこやかなお顔の紳士然としたお爺さん、頂上はもっと雪があります、と仰った。すかさず奥様、云うほどはありません、と打ち消して行かれた。
確かに風が強くなると同時に林床の雪も多少増えた。月輪寺(?)跡に佇むお地蔵様の赤い涎掛けは、新年を迎えてみな新しい。赤い色が雪景色に映える。
下りの方々も大分あったピーク、この寒い中で凡そ10人ばかり、中にはナベを囲むお若いパーティーも見られる。見下ろした、大きな池を覆う氷。朝夕の冷え込み方が判ろうというものだ。
ピークから、登山道を賑やかにするアイゼンの跡、よほど嬉しいに違いない。地面の露出した登山道では、12本では歩き難い。横尾山方面から登ってこられたお爺さん、長めの竹の杖を頼りにあぶなっかしい足取りである。顔にはしかし、意欲が漲っておられた。
横尾山の周辺はやっぱり寒い。温度計をみると−3度、今日一番の冷え込みを観測した。前方では、薄いとはいえ雪が覆う山中に、賑やかな声を辺り一面に木霊させる団体さん。 どうやら相当妙齢の方々に違いない。
只でさえ良く滑る横尾山からトンビカラへの下降ルート、雪とも土ともつかぬ塊を蹴散らしながら、アイゼンの跡が続き、その姿を視認したところは岩場の上。アイゼンは確り固定されていた。
流石に雪の乏しい鉄塔下では、アイゼンは不要だと見たリーダの合図、先を行く伯母様方も暫し停まって装着を解く。晴れた空から落ちてくる粉雪、温度計は3度を指して温かい。 |