薄黒い空から盛んに雪が落ちてくる。ガスに覆われ、辺り一体の展望は全くない。明神平を目指す車が、警告のあるゲートを越えて狭い山道を登っていく。ノーマルタイヤは貯木場までが限界だ。薄い雪に覆われた広場に轍が数本。一番端に先行車が一台。
雪の降る路を引き返して、笹野神社横から上の路へ登る。気温は2度、これから上昇する筈だから、雪が溜まる様なことはあるまい。急斜面の植林地に入って風が無い。風が無いので温かい。にも拘わらず、ガスに覆われた杉の林は如何にも寒々しい。
寒々しいガスに覆われた杉の林に雪が降る。登山道の傾斜は思いのほかきつく、ジグザグに登りながら溜め息がでる。朝からの雪は、高い杉の梢をやや白くした程度だ。林床にうっすらと雪が現れると足跡が現れた。驚くことに、行きと帰りの足跡が残っている。
どれだけ早い時間に登ったのだろう。尾根が近づくに伴い積雪が増える。大鏡池と間違えたのだろう先行者は、明るい開けた尾根の中央まで足跡を残している。からからに乾いたマツカゼソウの花が、雪の間から覗いている。
更に小一時間で本物の大鏡池、先行者の足跡も、水の無い池の中に建てられた祠の前まで続いていた。足跡を辿って祠にお参り、小さな神社の正面に、手のひらくらいの鏡があった。ご本尊であろう。積雪は30cmを超えてかなり沈む。
北西の風が出てきた林の中は、急激に気温が下がる。雪はいよいよ深くなり、先行者の足跡はもはや雪の下で、拾うことが出来ない。植林の切れた尾根芯のブナの枝先は、一面エビの尻尾に覆われている。背景が青空なら綺麗に映えるのであろうが、目を凝らして確認できる程度でしかない。
深い雪に足をとられながらも、壺足で薊岳手前のピークまできた。積雪は1mを越えているものと思われ、時には太股の付け根まで埋まるほどである。気温は−6を下回り、加えて風が強い。顔がひりひり痛んでどうしようもない。
薊岳は直ぐ目の前にあるはずであるが、ガスの彼方にあって望む事が出来ない。ピークを下り、いよいよ岩尾根手前でギブアップ。雪ほどは如何とでもなるのだが、寒さが半端ではない。露出した顔が凍傷になりそうな程冷たい。
引き返してピークを下った辺りで後続お二人とであった。しっかりアイゼン装着、お話ししながら顔が動かなかった。薊から明神平を回る積りであったが、僅かに手前まで行ったのだから、薊岳まで行った事にしてもよかろう。下るに伴い上昇する気温、最後まで日差しの無い一日だった。 |