外気温は2度、融け残る雪と切り株だけの田圃から立ち上る煙は、寒さと伴に師走の日本の原風景を見せてくれる。青空から降り注ぐ日差しの中で、越畑は年越しの最中にある。
皆さんが忙しく立ち働く中、ハイカーの姿は如何にも暇人に見えるに違いない。ところが暇で歩くのではない、時間を作って歩いているのだ。寧ろ、温い布団にくるまっている方が、どれだけ望ましいかしれやしないのである。
山道の入り口でふと気が付いた。用水路に水が無い。越畑を訪れるようになって十年ばかり、芦見疎水からの流れの無い用水路は初めてだ。堆く積もった落ち葉によって、水が止まって久しいことがわかるのである。
山道に残る轍の跡。随分硬く歩きやすく、これならトラックも入ってこれよう。昨年盆の豪雨により毀損した山道の復旧工事が始まっていた。疎水出口への影響はないように見えたのだが、一升瓶2本、ミカン一箱を供物に小さな社が立ち、疎水出口までの大規模な補修である。
嘗ての厳しい斜度の路は片隅の階段から登る。工事現場を過ぎると枯れ木の散乱する荒れた山道が続く。コシアブラを敷き詰めた路から、僅かに芳しい香りが立ち上る。芦見峠を冷たい風が抜ける。
芦見林道へ続くユリ路で、ハイキングクラブは立ち木に釘を打つな!、と書いたテープがあった。まことにご指摘の通りである。林道には、地蔵山を越えてもたらされる陽光があり、寧ろ峠より温かい。うっすらと積もった雪の上を、縦横に横切るアニマルトラック。
中には、川の土手を掠めて歩く奴もある。遂には、対岸に架かる急傾斜の細い杉の木を下っていったやつもあった。躊躇したような痕跡も見られるから、必ずしも自信満々でやった訳ではないようだが、大した事をやる奴だ。落ちたら流れの中、石の角である。
竜ヶ岳にも足跡は続くのだが、竜の小屋方面は特に多い。薄い雪と落ち葉と傾斜、ソールの減った登山靴でなくともよく滑る。木の根枯れ枝、何でも持って支えがないと危ない。故に、常にも増してキツイ登りだ。竜ヶ岳ピークから望む京の町、この位置は暖かい。
女性が一人、かなり多きなザックを背負って到着した。厳冬期の冬山にでもいかれるのかな?。次に、滝谷へ向かった。踏み跡を外して、結果、えらい藪漕ぎをした後、谷に下降した。薄い手袋はドロドロに濡れてしまった。よくまあ下りてきたものだ、と思えるような白い山腹があり、振り向くと、これから登る厳しい山腹があった。
有り難い事に、誰が付けたかトラロープのお陰で、随分楽に登ることができるではないか。汗を振りまきながら反射板のあるピーク。地蔵山ピークはあそこにある。隅の雪に残る足跡と敷物の痕跡、風を避け食事をしたハイカーのものだ。
地蔵山ピークまで踏み跡は無数にある、が、誰とも出会わない。何時ものように、お若い地蔵さんにご挨拶。午後に入って隙間無く空を覆う雲、お地蔵さん、あんたが何とかしなさい。神仏のお力かどうだか、とたんに僅かな日差しが戻り、山頂ピークは暫く明るくなった。
集落のいたるところに取り残された、色鮮やかな柿の実をカラスが啄ばむ。まことに、師走の夕方に呼応した寂びの効いた景観だ。 |