■ 北摂・半国山
・・・・2011年09月04日
2011.9.5

宮川から半国山へは金輪寺への道を歩きます。沿道には色々な生き物が棲んでいて、昨年生まれたまだ小さいシマヘビもその仲間でした。

シマヘビは寺を少し下った、登山口の直ぐ近くをねぐらにしていて、道の傍にはカエルやトカゲや、食べ物になる生き物が沢山います。

時には道の脇で獲物を狙うことさえありました。ところがここには、大きな化け物が住んでいて、トカゲやサワガニや、ヘビの仲間も化け物に押しつぶされて、死んでしまうことがありました。

シマヘビも、道に出るときには腹に伝わる化け物の足音には、よほど注意をしていた筈でした。

その日も丁度、道を渉って下の谷まで行こうとしたやさき、化け物の響きが近づいてきます。なんとか渉りきろうと焦ったのですが、あと少しのところで、化け物の厚くて硬い足が、右の腹を掠めてしまったのです。

シマヘビは気を失ってしまいました。どのくらい時間がたったのでしょう、気付くと身体の下を、冷たい水が流れています。でも身体を動かすことは出来ませんし、目も開けることさえできないのです。

誰かが身体を動かしますが、意識はまた遠くなっていったのです。それからまた長いときがたちました。少し乾きすぎて痛みのある背中に、冷たい水が流れます。身体はまったく動きませんが、どうやら命だけはとりとめたようでした。

そうしたことは、定期的に、繰り返しおこり、シマヘビは元気を回復していきました。水は山肌の湧水でした。世話をやくものは優しい靴音を響かせて近づきます。靴音と一緒に、ときには小さなカエルなども運ばれてきたようでした。匂いで分かるのです。

咲いていたクリの花は、今では青いイガグリをつける季節です。目も開き、やっと動けるようになったシマヘビは、草むらの影に移動して、身体を休めました。ある日の朝、坂道のしたから、懐かしい靴音が響いてきました。嬉しさについ、首を伸ばしたまま、思わず道に這い出してしまいました。

その顔は、およそシマヘビの顔ではありません。一面に喜びの溢れた優しい顔をしていました。元気に動き回るヘビを見て、靴を履いた、人もたいそう喜びました。感動の時間が過ぎ、やがて、人は山の端に隠れて行きました。見送ったシマヘビもまた、草むらに消えていきました。

それから寒い、凍りつく冬が来て、水場は雪に覆われました。季節は少しづつ進み、やがて暖かな陽射しも戻ってきました。水場の水も音を立てて流れています。冬眠から目を覚ましたばかりのシマヘビの耳に、あの懐かしい靴音が響いてきました。



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