芦見峠で一休み、松の倒木が、ちょうど良い椅子になる。地蔵山から単独男性が降りてきて、越畑へくだっていく。芦見谷からも単独の男性が登ってきて、登ってきた勢いのまま地蔵山へ登って行く。
下りなら分からぬわけでもないが、何れの方も、此処で一息いれようなどとは思わぬらしい。空模様を気にすれば勢いそうなるかもしれん。いつまで持つか、どうせ天まかせである。
充分休んで芦見谷へ、林道に降りる手前で落ちてきた。見れば大きな雨粒である。木陰で空を見上げている間に、どうにか小雨になってきた。小雨の林道に、バイクのエンジン音が響き、そんなはずみで、再び雨は強くなった。
濡れるのは本位ではないが、いかに雨といえども、地蔵山くらい登らないではつまらない。峠まで戻って地蔵山へ、弱くなった雨は降り続き、自然林にかわるあたりでとうとう止んだ。
止んだあとの羽虫の多いこと、足元から顔の前まで、鳥肌が立つ程のハエである。ひょっとして、彼らを惹きつけて離さないある種の匂い、例えば、昨日のビールなど、を放っていたかもしれん。
山頂周辺のアセビの林で振り切れたものか、反射板の前あたりで少なくなった羽虫は、お地蔵様に、数週間のご無沙汰の挨拶を終え、反射板跡地から金網の破れ目を通って直登コースにでたころに再び集まって目の前を飛び回った。
目に飛び込む奴と刺す奴にはうんざりである。冷たい水の流れる、崩壊した谷にくだって頭と手と、出来るだけ身体も拭いて匂いを消したつもりである。そうした結果か、確かに羽虫は減ったようだ。
谷はいよいよ崩壊が進み、谷川に沿った古い石積の道は、完全に姿を消してしまった。今では道のあったところを水が流れ、踏みあとは谷川中央に堆積したガレの上に続いている。 |