増水した川迫川に流石に人影はない。熊渡りの駐車地に車が三台。この暑い最中に車道を走る三人、何れも背に重そうなザックを背負い、一人は女性である。
どうしたわけだか禁断の、双門コースを行くことになった。用意をするまでは予定にない事で、全くの偶然に委ねた結果だ。グズグズ歩き出したのはもう10時に近い頃、殆ど雲に覆われた空からの日差しが応える。
オオルリの梢を過ぎたあたり、後ろに響く軍靴の響き、振り向くと例の三人が近づき、行進の態度と規則正しい歩みで追い越して行く。追い越し様に、どこまで行きます?、とたずねる男性の自信に満ちた態度。
あれあれと思う間もなく、白河八丁の先の、葉叢の彼方に消えて行く。涼しい河原で一息入れて、後ろ姿を拝ませて戴いた。伏流の先には綺麗な流れ、どうにか流れを越え、よく滑る木の柵を登ってダムの取水口まで辿り着く。
小さいながらアップダウンを繰り返し、浅瀬を探して左岸に移り、岩をへつって大きな滝の前。飛沫と風でたちまち濡れた身体は冷えだした。二つ並ぶので双門かと思ったら、一とニの滝らしい。納得できない。
滑る岩を回って鉄の橋を渡る。水量が多い目である事を勘定に入れても、やはり立派な滝である。さてここからが辛かった。時折素晴らしい景観の望める狭いエリアがあるとわいえ、ただただ鉄の階段をのぼるのである。
ピークはそこかあそこかと、曲がる度に見上げては、ため息ばかりが出るのである。やっと下りに入ったぞと、喜ぶのも束の間、見上げた階段は更に更に上まで続いている。
垂直の岩肌に、張り付くような双門の滝、何回見ても迫力が無い。落差は相当あるらしいが、溝を流れる程度では、感嘆するいかなる言葉もでてこない。階段歩きで相当たまった鬱憤を、晴らすような景色は何処にもない。
羽虫は纏わり付くし、頂仙岳の山裾を下ってくるガスは気になる。綺麗な流れのそばを通っても、水遊びも出来ないのである。やっと本格的な下りに入ってからも、小さなアップダウンはなおも続く。
老いも若きも人気のコースではあるが、山歩きと云うより、トレーニングセンター、といったほうがよほど正しい。膝をあげるので、膝の上側の筋肉が多少痛い。
河原小屋へあと少し、という河原でとうとうポツポツやってきた。木陰で昼ご飯を食べながら様子をみる間に、対岸の山裾から5人のハイカーが現れ、河原小屋の方へ歩いて行く。しめた、頂仙岳へのルートが分かった。
既に時間は16時、雨は止むどころか激しくなる。何処かで雷も鳴りだしたし、河合ルートまで兎に角急ごう。階段登りのあとの急な斜面は足に応える。やや右にコースをとりたいところだが、どうやら既に過ぎたらしく、右には急な谷がある。
激しくなった雨に濡れながら、山名プレートには頂仙岳の鮮やかな文字。階段登りといい前回と同じような大雨といい、どうも大峰ではついてない。
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