大山寺に続く静かな通りに、今から登るハイカーと、早朝からご苦労をなさった下ってくるハイカーの姿。ガスに覆われた空には日差しもなく、やや肌寒いほどである。
ゆやゆら、たゆたうような歩みで山門を抜け、本堂横に続く薄暗い森に入る。立派なブナと立派な杉の森が続き、夏道コースと分かれて中宝珠へと続く狭い谷を見上げる。
見上げた谷のあちこちに、疲れたハイカーの後姿が点在し、更にその上にもそれは続いている。両側には立派ではあるが婉曲な、色白のブナの林が続き、林床には潅木や夏草が繁茂し、ヤマアジサイの瑞々しい青い花が一際目立つ。
大汗になりながらも、涼しさに助けられて中宝珠の尾根、見渡すブナの梢には沢山の実がある。斜度を緩めて登る林の中で、真っ赤な赤い実をつけたウスノキが可愛らしい。
今日はまだ大山の姿を見ていない、山は全てガスの彼方である。目の前に見えるのは白く崩壊する壁だけである。草が繁茂する細尾根では恐怖感もまるでない。良く見ると殆ど崖に挟まれた細尾根である。
そのような尾根のロープ場では、先行者の登攀をまつ長い列ができる。後から後から詰掛ける亡者のような登山者の群れで、待ち行列は更に長くなる。遂に先行する4・5人のパーティーは路を空け、後続に譲る事になった。
長く伸びた登山者の列に、ようやく顔を出した大山北壁。感動も束の間、日差しも戻ってくるので、たちまち狭い尾根上に水を飲む列ができた。中には、小休止をさせてもらえない、厳しい指導者に引率された人もあった。
やや登り勾配の山腹が続くと、右上が賑やかになる。夏草の上には、蕾の多いピンク色のシモツケソウや青いクガイソウが多くなった。尾根に出ると目の前にユートピア非難小屋。立派なカメラを持ったハイカーが多い。
左手の賑やかさで振り返ると三鈷峰に向かう列、三鈷峰ピークは大勢のハイカーで溢れそうである。小屋の日陰で軽く食事、その間にも行きつ戻りつ登山者は絶える事がない。日差しは暑いが風は冷たい。
冷たい風の先には真っ白な雲、出雲平野は雲の下であった。「象が鼻」を過ぎても登山者の群れは絶えない。ここから先は、確か立ち入りが抑制されていた筈。ハイカーの多くは、何処にでもいるような中年のおじ様・おば様方である。
切り立った斜面の苔の上に咲くダイセンオダマキ。小さなヤマハハコやオトギリソウもいじらしい。1650mの小さなピーク、ここからはナイフィリッジの恐ろしい尾根が続く。見ているだけでも恐ろしい光景は、瘤の上から見上げるだけ、を旨としている。
見上げた崩壊地から降りてくる登山者の姿、登っていく登山者の姿、その姿も、流れるガスで見え隠れする。苔の上に腰を下ろして、ただボーと30分ほど。確かに、天上界の気分を味わったようである。
|