貯木場の手前で車を降りた、林道の瘤に底を擦って破損させたくないのである。雲が多い割りには気温が高め、林道にはガクウツギの甘い香りが満ちている。甘い匂いと高い気温は必ずしも心地よいものではない。額に滲む汗の中にも匂いが沁みて、むせて些か気持ちが悪い。
道の瘤には幾つも擦過痕が残り、傍にはマフラーも転がっていた。持ち主は大いに慌てたことであろう。南無阿弥陀仏、ほっと胸を撫で下ろすのである。マナコ谷登山口には2台の車、いずれもマフラーは無事であった。苔むしたコンクリートの上で、ヒメレンゲが今を盛りに咲いている。
登りはじめると意外に応える。見上げた急峻な杉の林は何処までも暗く、いつ果てるとも知れないように見え、間伐材が転がる林床を見ても、ちっとも気休めにはならない。兎に角今日は身体がだるい。
九十九折れの登山道の右手に、芽生えたばかりの明るい林が見えてきた。嬉やこれが終わりの合図、少し歩くと林が切れて、尾根までも続く背の低い笹。振り返ったその先に、馬駈場から木屋谷の源頭、国見山まで柔らかな光に溢れている。
見え始めた尾根までのまた長いこと、下りに出合ったご夫婦の前では、多少ながらも出た元気、去ってしまえば5分歩いて休みの繰り返し。檜塚と奥峰の間に立って、今日はよくぞここまで来たもの、われから褒めてやれる日もあり。
まだ出ぬ若葉の木陰の下で、ビニール広げてエネルギーの補給、みかん入りのデザートの旨いことは今年一番、幾らか元気も出てきた次第。今のうちならも少し歩けよう、奥峰目指して腰を挙げれば、今わ昔のおぁ姉さまやお兄様方、がやがやと下ってくること10人ばかり。遅れて出合った赤い顔のおじ様の忘れ難く、そやろ今日はしんどい日やねん。
奥峰につけば片隅の若人4人、2人は山ガスタイルで、サポートするのはまじめそうな若者2人。それにつけても女は強い。奥峰を下ってヒキウス平までの楽チンなこと、綺麗なブナの林をみるに付けても、余裕があると赤い実のような虫こぶなども目に入る。
谷底を覗くと、白い筋のように残雪があった。ヒキウス平でハゲの斜面を谷まで下り、やっぱり登りで疲れ果て、ようやく帰った檜塚奥峰、漏れる日差しも今わはや雲一色、最後には雨粒さえも混じってきた。
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