連休初日で道路は渋滞、石水渓・仙ガ岳登山口に着いたのは10時を回る頃になった。茶畑を抜ける風は冷たくお茶の新芽も僅かに伸びはじめたばかり、どこにも働く人の姿がない。鬼ガ牙の岩尾根を左手に見ながら、アオダモの咲く林道を歩くことおよそ30分、朽ちた作業小屋横から南尾根コースと白滝谷コースが分かれる。
右へ折れて南尾根コース、谷川に沿った登山道に椿の落花が色を添える。新緑と云えるほどの若葉もなく、林の中にタムシバの白い花を探すことも容易だ。谷の瀬音が切れると尾根に向かって傾斜の増した斜面をジグザグに登り、やっとたどり着いた尾根の右側に不動尊があるらしい。
一度も確認できていないのが残念だが、今日もまたお二人ほどの先行者があって、にぎやかな声があたりに木霊する。左に進みロープ場を超えると不動尊のある岩場より高所になる。岩場に寄り添う二人の姿も下方になった。
尾根を抜ける風は冷たくて、風邪の再発が気にかかる。昨年は僅かばかり残っていたアカヤシオはまだ蕾も混り咲いたばかり。ピンクと白が枯れた林の彩となるべきであるが、ピーカンの予報も外れ曇り空、時折はポツポツと落ちてくる。春霞と曇り空では折角のビューにも精彩がない。
精彩のない、アカヤシオの尾根をたどって仙の石、確かに今日のものらしい踏み跡の残る、風だけが抜ける無人の西峯。岩に腰掛けエネルギーを補給する間にも体が冷える。長居は無用、さてどこから下ろう。仙鶏尾根は未踏ではあるが、見たところ植林が多そうな。白滝谷は大きな谷で如何にも寒そう、仙鶏尾根から林道歩いて坂本集落、何処にも寒そうなところはなさそうだ。
仙鶏尾根を下りはじめて、さてなかなかに下りやまぬ。終いには崖のような下りがあって、左手に僅かばかりのヒノキが育つ細尾根だ。崩壊したところも多く、いずれ更に低くなったら矢原川の源流域はどうなることだろう。
などと思っていたら前方の岩場に二人の沢屋さんの姿。沢から上がったばかりだろうか、この寒い中よほど好きにちがいない。このあたりで丁度尾根中央、少し登って少し下って、最後に杉の林を大いに登って野登山の林道に出た。
林道に出ると風が少なくなっただけ心持暖かい。林道を覆い尽くした土砂もほぼ奇麗に修復され、峠の旧茶店には軽トラに乗った住民の姿も戻っていた。あとはブラブラくだるだけなのだが、急勾配の参詣道では膝が痛くなった。
坂本集落まで降りると日差しも戻り、ピーク辺りの上空にも雲一つない青空、老いも若きも家族総出の作業が続く、今では珍しくなった懐かしい田園風景があった。 |