■ 台高・薊岳〜明神平
・・・・2011年03月05日
2011.3.6

解禁になってはじめての週末、川原のいたるところで釣り糸をたれる太公望の面々。釣りに夢中かと思えば、中には焚き火の傍で記憶の魚のサイズ計測に余念の無い方々もある。貯木場にも今日は釣り師の姿があって、最上流部の駐車場に向かって釣り上がる模様だ。

昨日までの寒さで中腹から上は真っ白、3月には時々ある幸運だ。登山口の笹野神社横をすり抜け、うねうね続く上り基調の杉林の道は、夏でなくともかなりの苦労である。流石に熱中症に至ることはなくても、なかなかに厳しい。

400mほど登ると林床はうっすらと雪に覆われ明るくなった。新しい雪なので汚いものは全て雪の下、林の中も明るくなって幾らかは背中を押す力になる。気づくと雪の上に残る3つの足跡、それに狸かキツネか一匹の動物が、付かず離れず登山道を登っていく。

一人は踏み跡が小さく女性らしい。水の無い、新しい社さえできた大鏡が池が目下の目標、1200m程にあって標高差800mの先にある。これがなかなか近づいてこない。雪の上では、見えなくともだいたいの行動が予測できる。3人と1匹は休んだような様子もなくもくもくと登っているのに、どうしてここで休む事ができようか。

と思いながら、南部の見晴らしが良くなった処でザックを下ろした。僅かな時間であるから、なかった事にしても責められることもなかろう。休むと汗が冷えて応えるのだ。やっと着いた大鏡池では、一人の足跡は池の中を伺って戻っているが、ここでは休まない。

池を過ぎると積雪が急に増え、吹き溜まりでは30cmを越えるところもあって歩き辛い。ずるずる滑る急斜面を過ぎると尾根に出た、たっぷり樹氷を纏った林の先に目指す薊岳ピークが見えている。遠く、大峰の大普賢岳・弥山・八経ガ岳も、良く晴れ渡った紺碧の空に浮かんでいる。暖かな日差しを受けて、できたばかりの綺麗な霧氷が音をたてて落ちてくる。

ここに至って、純白の雪の上で一際存在感のあった動物の足跡が林の奥に消えて行く。尾根を歩くこと30分程、小柄な伯母様が下ってきた。その足元にはアイゼンが光り、颯爽と歩く姿に感心頻り。どこでアイゼン着けようかな・・。

尾根が狭くなると岩尾根に変わる。いずれ着ける必要もあるので、ここで着けるのも悪くない。アイゼンを着け、少し歩くと薊岳1406mの岩の上。綺麗に雪を踏んだのは、麦谷方面から木の実ヤ塚を経て来られた方々らしい。

狭いピーク南側の岩の陰は暖かい、雪を纏った山々を見ながら昼食。明神平めざしてトレースを辿ると、あれれ、唯一のトレースは中奥へ向かって谷を下降するではないか。そんな馬鹿な、と思えども姿も見えず、止むを得ず尾根を移って新雪の上にトレースを作ることになった。

ブナが大勢を占める尾根では、霧氷を纏った枝先が陽光に煌いて、しばしば歩みを止められる。これを形容する言葉は出てこないのだが、光物が好きな女性に見立てて「ブナのパーティードレス」といったら伝わるだろうか。ちと大柄に過ぎるキライはあるし可愛いかどうかは大いに疑問だ。

登り返すと前山で、新雪を傍若無人に踏みにじる、ハイカーの我儘ぶりが目に入る。当然の如く、そのうちの一つは自ら作ったものになっていくのは止みがたい。日差しが西に傾き始め、黄色や赤みを帯びた光線が多くなった。雪面に跳ね返る光りは先ほどにもまして煌きを増す。

明神平からのくだり、大きなザックを背負った若者が登っていく。今からが絶好調の雪の上で、今日は宴会かな。少しはなれて更に一人が跡を追う。


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