色々な思いはあるものの、この暑さこそは無視できない天敵とこころへ、耐暑訓練と秘かな興味を胸に、人影の無いゲートを抜けた。湿度は飽和状態で余りは霧と露、やや薄暗い谷間の朝は昼間の暑さを連想させる。大岩ケ岳へ途を分ける辺りにササユリは無い。細やかな流れの谷に涼しげな水音は無い。局所的な雨でもあれば、草木のみならず秘かな楽しみにも多いに寄与する。雨、頼みます。
水ものは少ないもののクモの巣は多い。汗の顔に貼り付いて厄介だ。藪とは云え、都市部を離れたこの山林の中で朝の気温は25℃、歩くと直ぐに汗になる。前方が明るくなって湿原に到着、風が欲しい。日がさせば風は起きるが気温も上がる。生まれいずる悩みは尽きない。さて、今頃のお花は、と見た木道の横に咲くカキラン。小さな株ばかりで、昨年あった大きな株は影も無い。多年草で足も無ければ車も持たない。展望台の周辺、その他、許された範囲で捜索してはみたが他に姿は無い。
お花の鑑賞を終え次の目的地へ移動しよう。遂にお日様が顔をお出しになり暑い。同時に風も起きるし霧は晴れ明るい。明るさは滅びの色かな。直ぐに気温は30℃超え。クリは実を付けたばかりでとても小さい。中には赤茶けて枯死したものもあり、彼らも近々引越しを検討するだろう。そんな事に頓着なく、元気な葉を広げるホウの幼木。辺りに木霊する声はウグイスばかりだ。
移動といっても距離はある。風の抜ける小山のピークで木陰を探して水飲み休息。地を這い上がる風は冷気を妊み涼しい。ザックを降ろした背中を抜ける風は大変に気持が良い。前方は大岩ヶ岳のピーク。今のところ人影は無い。その大岩ヶ岳ルートに出て、羽束川に掛かるなんとか橋方面へ移動、背丈を超えるシダと笹薮のトンネル、クモの巣に加えてダニなどが厄介。
千刈ダムの駐車地を見下ろすと、愈々上がる気温の中、今からお山に向う方々が一人二人、褒むべきか叱責すべきか多いに悩ましい。灌木の林が切れる辺りで次の目的を果たし、さあ帰ろうという頃にはヘロヘロだ。焼けた土・岩の上は呼吸困難、汗の栓はいつの間に壊れてしまった。尾根の木陰に座り込んで、冷たいもので内側から冷却、食欲はない。この暑さの中、こんな丘陵歩きは自殺に等しい。実感である。
大岩ヶ岳手前で谷に降る。谷の底には未だ冷気が残り、僅かな水の流れの傍で、羽化後のトンボが羽根を安める。ツチアケビは今年も全ての花を食べられていた。暑い駐車場に他に車は無い。 |