公園の駐車場に車は少ない。炎天下の道は歩かずとも、登山口まで入る道があるから当然の選択だ。高速の巨大工事現場はひっそりとして人の気配がない。橋の上にたむろする若者がいる。水に親しむ時間にはやや早い、何をやるつもりだろうか。左岸に続く道傍の駐車地はもぬけの殻。真夏の太陽が、いかに真っ赤に燃えていようとも、怪しい車もなければ散歩の人もなく、登山口は蝉時雨の中。むむ、大事な国民的行事のある日ではなし、もしや、甲子園の地元チームの応援の日か。或いはこんな暑い低山を捨て、遥かに遠い北アルプス辺りの雲の上を歩いてらっしゃる?。
何にせよ、登山口横の駐車地に一番に車を止める光栄に浴し、近頃の朝としては破格の23℃の樹林の下のスタートである。特別な光景もなく暑いので、登山道脇のタラヨウの葉に、お手紙でも書こうかと思っている。あて先は天気の神様で、もう少し優しい夏をお願いしておこう。根拠はないけど、満月の夜中に配達してもらえる様な気がする。暫く歩くと涼しげな谷川と出会い、底に溜まる真砂土を一掬、案外に冷たい。
近頃の降水量は少ないのか、滲み出す水の消えた石の道は長い。暫くは続く木陰の道も、やがて降り注ぐ陽射しに晒される道となり果て、遂には露岩地帯に放り出されて焦熱地獄。これが思いの他長く続き、発汗のピークを迎える。しまった、ぼーと歩いて、タラヨウを見過ごしてしまった。お手紙は降りにしよう。充分に発汗した後は、風の抜ける木陰の道が待っている。笹間ヶ岳方面は砂漠と見紛う焼けた大地、夏場に踏み入るところではない。
矢筈ヶ岳方面は樹林の道、緩やかな登り道が続くコースはほぼ木陰、悪行の覚えがなければ涼しげな風さえ期待できるコース、当然ながら涼風の尾根道であった。歩く人が少ない事は、顔に掛かる蜘蛛の糸が物語る。この時期に、これ以上はないコンディション、アブラゼミに加えてツクツクボウシが鳴き出した。これにヒグラシが混ざると夏の終わり、心持ち、陽射しが煌めいて見えるのも夏の終わりの兆候だ。
汗はやはり零れて落ちる。そろそろ水の補給がないと目まいがしてきた。水分補給で暫し休息、急峻な谷底までは相当な高度差がある。機会があれば、降ってみよう。そんな事を繰り返し、大岩を越えると矢筈ヶ岳、正確に云うなら、この上50mがピークであるが、興味はないので踏まなくて良い。むしろ、周辺の地形に関心があるのだ。
周辺を逍遥する事3時間、足腰の痛みで時間を知った。エネルギー補給の後は、ぼちぼち歩きで降る事にしよう。降り始めた樹林の下の気温は27℃、風もどうやら午後のものだ。笹間ヶ岳出合いで、今日初めて人の顔を見た。焼けた岩場は暑かった。お陰でまたも、タラヨウの木を見過ごした。お手紙は出さずにしまった。次では季節も代わってしまう。 |