雨はなくても泣き出しそうな空、遠出で降られ、山ビルなどに好かれても哀しいだけだ。近くてヒルの生息域を外れた湖南アルプスはその点の心配がない。こんな天候でハイカーは少なく、登山口まで車で入ると撤収が早い。
笹間ヶ岳・矢筈ヶ岳の登山口に車を止める。お隣は、大音量の音楽の中、黙々と用意に時間をかけるお兄さんだ。装備は間違いなく山のものだが雰囲気が異なる。入山の目的は異なるところにあるものと見た。
彼の胸の内を伺うなら恐らくこうだ。こんな雨のパラつく大風の日に、何が面白くて山に行く?、もっと有意義な休み方もあるやろ、と言っておったに違いない。用意が整い、歩き出した直後に姿が消えた。目的に合致するコースを行ったものと思われる。
登山口を過ぎ暫く歩くと登山道を塞ぐ蜘蛛の巣がある。一旦壊れた蜘蛛の巣の修復は、どんなに早くても10分やそこらは掛かるだろう。この10分ほどに限れば、ここを通過した人は他にない。
湧水の多い谷を登って尾根に到着、汗を拭く間に男性二人のパーティが着き同じく小休止。すぐ先の出合いを矢筈ヶ岳方面に歩くと何やら不穏な声が聞こえる。姿のない女性の口から漏れる非難の声だ。姿の無い事で安心してはいけない。薮の影に聞く耳があるのだ。正統派登山姿のアベックであった。そこへ先の二人が来て、アベックは勿論先を行き、男性二人が後を追う。
4人の去った小山の上に、吹き抜ける風の音が寒々しい。実際の気温は18℃ほど、汗で濡れた体はやや寒い。小さなアップダウンを越えながら歩く林の中に廃道らしき道がある。それも至るところにあって、恐らく辿る事も可能だ。これは嘗ての山保全の道であるのか生活の道か、何やら興味深い道である。
道横に巨大な花崗岩が現れると矢筈ヶ岳はもう近い。矢筈ヶ岳とはいいながら、ルートの上に、50mばかり頭を出した瘤である。頭を踏む事にさほど拘りは無い。ここでザックを下ろし辺りを散策。生き物の影はなく、遠くの方で、気配を察した鹿が鳴く。
登山道に復帰したところで、田神山方面から来られた男性と遭遇。その足元で、岩に化けた積りのガマ、如何に上手に化けおおせても、石にならない体がある。踏まれては可愛そうだから、石の体を枯枝に挟んで道の外に強制退去。その時の姿はフニャフニャ、とても石とは言い難い。
田神山の参詣道に抜けて、今日の行程はお終い。残した行程は案外に長く、降った舗装路を、車まで凡そ1kmも歩いてしまった。 |